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抱擁の歌



近所に住んでいる、ひとりのおっちゃんの話。
おっちゃんは元ヤクザで、現在はアルコール中毒。ここら辺では誰もが知っている事実。
おっちゃんの背中に鎮座する和彫りの龍が、常に周囲を威嚇している。
おっちゃんは一匹の老犬とともに暮らしている。

老犬の名は花子。
花子はおっちゃんのかけがえのない家族。おっちゃんは花子を溺愛している。
人目も気にせずにふたりがじゃれ合う姿は、近所では馴染みの光景だ。
せやけど、忘れてはならない。おっちゃんがアル中だということを。
悲しいことやけど、酒は人間を操作する。夜、アルコールは東淡路の表情を急変させる。

街が眠りにつくのと引き換えに、おっちゃんの言動に狂気が宿る。
それは、いつしか終焉の見えない暴力へと変換されるのだ。愛する花子への一方的な、それへ。
花子は声にならない悲鳴を上げながらも、おっちゃんの傍からは決して離れようとしない。
本能的に知っているからなのか? 自分が誰よりも主人に愛されていることを。

でも、それってほんまに愛なんか? 花子?

その答を知る者はない。当事者である花子とおっちゃんにしか分からない。
花子は懇願するような眼差しで主人の顔をじっと見つめる。
そんな花子に対して、おっちゃんは口汚く罵り、殴る蹴るの暴行を加速させる。
見るに耐えかねて仲裁に入ったこともある。ときには警察の手を借りることさえあった。
けれど、事態は思うように好転しない。近所の住民は揃って唇を噛み締めた。

朝になり、おっちゃんの体内から酒気が遠ざかる。するとまた、いつもの平穏なひとコマが戻ってくる。
ふたりは何事も無かったかのように、軒先で仲良く肩を並べていた。

自分は眠れない夜を音楽と共に過ごす。
ギリシャ歌謡ライカの国民的歌手ハリス・アレクシーウは、自分のために夜通しで名唱を聴かせてくれる。
気高く、母性愛に満ちたハリスの歌声は、誰にも等しく朝が来ることを教えてくれるのだ。
ハリスのステージが終焉を迎え、代わって新聞配達員の足音や雀のさえずりが、バトンを受ける。
そこで、不意に切迫した悲鳴のようなものが聞こえてきた。
花子・・・。そう思ったけれど、彼女ではなかった。
それは、おっちゃんの嗚咽。深い深い悲しみの声やった。

花子が死んだ。みんなが言うに、老衰とのことだ。
それ以降、おっちゃんが酒に狂っている姿を見ることはない。
おっちゃん、もっと早くに気づいてやれよ・・・。
明け方のライカは、喜びや悲しみもまた、誰にも等しく訪れることを告げていたのかもしれない。
花子、さようなら。元気でな。

HARIS ALEXIOU / LIVE AT THE ODEON OF HERODES ATTICUS JUNE 2007-A TRIBUTE TO MANOS LOIZOS
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繁盛亭アルバイテン

Author:繁盛亭アルバイテン
ヒッピー・ボヘミアンな生活に憧憬を抱く浪速のポンコツ。
物心ついたときから寝つきが悪い。

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