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つぎの夜へ

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2010年最後の更新になります。ラストを飾ってもらうのは、この2冊しかないと思っていました。
20世紀最大の傑作、サミュエル・ベケットの『モロイ』と『ゴドーを待ちながら』です。
僕のこれまでの人生に於いて、最も重要な2冊であり、生涯かけて追いかけることになるであろう作品。
詳細には立ち入りません。なぜならベケットの言葉を読むことでしか、本書の魅力は伝わらないからです。
さっそく本文からの引用を読んでいただき、溜飲を下げていただきましょう。まずは『モロイ』から。
モロイが海岸で拾った16個の石を、重複することなくしゃぶろうとして、四苦八苦するシーンです。

そこでぼくは別の方法を探しはじめた。まず手はじめに、一つずつの代わりに、四つずつ動かしたほうが
いいではないかと考えた、つまり吸っているあいだに、外套の右ポケットに残っている三個の石を手に取って、
その代わりにズボンの右ポケットの四個を入れ、またその代わりにズボンの左ポケットの四個を入れ、
またその代わりに外套の左ポケットの四個を入れ、そして最後にその代わりに外套の右ポケットの三個と、
吸い終わってまだ口のなかにある一個とを入れるのである。

このような試みが、改行も無しに、永遠と続きます。戸惑いを隠せない方も、いらっしゃるでしょう?
これらの表現に何の意味があるのか? 何かの比喩なのか? そもそも何が面白いのか?
しかし、このシーン、この描写が、ベケットと言葉の関係を如実に物語っているのです。
常に神の視点に立って、物語をコントロールすることばかりが、作家の仕事ではありません。
そもそも言葉に意味などありません。僕たちは、それほど意味や意義を背負って生きているでしょうか?
ちなみにモロイが石をしゃぶるのは、自然を手なずける為だそうです(笑)。さて、続けましょう。
次は不条理演劇の神髄とも言われる『ゴドーを待ちながら』の、台詞から。極限状態で放たれる言葉です。

いいかげんにやめてもらおう、時間のことをなんだかんだ言うのは。ばかげとる、全く。いつだ! いつだ!
ある日ではいけないのかね。ほかの日と同じようなある日、あいつは唖になった。わしは盲になった。
そのうち、ある日、わしたちは聾になるかもしれん。ある日、生まれた。ある日、死ぬだろう。同じある日、
同じある時、それではいかんのかね? 女たちは墓石にまたがってお産をする、ちょっとばかり日が輝く、
そしてまた夜。それだけだ。前進!

自分たちの生きる時代が、特別な時代であると思い込みたい人々の幻想を打ち砕く、完璧なアジテーション。
瞼を閉じれば闇の世界、瞼を開ければ光の世界が始まるように、常に僕たちは終わりながら始まる世界に
生きている。ユートピアを想わせる終末なんてやってこない。ならば残された道は、共生。それしかありません。
ひとつの終わりが、すべての終わりになるような考えを徹底して否定し続けた作家、それがベケットなんです。
不条理なんかじゃありません。繰り返しを生きる僕たちにとって、これほど真摯な書き手を、他に知りません。

そんな訳でいよいよ「終わり」が近づいてきました。冒頭で申し上げたとおり、本年度最後の更新であると同時に
『まだ寝ません』としてのラストとなります。レヴューというには情報に乏しく、日記と呼ぶには妄想過多で、
そんな胡散臭い文章を、僕はいつしか「作品」として意識するようになっていました。どんな「作品」にも終わり
があります。僕はそれを1年間と定めました。途中、挫けそうになりましたが、皆様のおかげで、なんとか今日
まで続けることができました。更に皆様からいただいた多彩なコメントによって、念願の多声性までをも獲得する
ことができたのですから、感謝の想いは尽きません。本当にありがとうございます。

今回で『まだ寝ません』は「終わり」になりますが、それは決してすべての終末を意味する訳ではありません。
この記事をアップした時点で、「終わり」ながら「始まる」もうひとつの世界が、立ち現れるでしょう。
そんな次の夜、そのまた朝が来る日まで、おやすみなさい。

みニャさま、良いお年をお迎えください。
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サミュエル・ベケット / モロイ
サミュエル・ベケット / ゴドーを待ちながら
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テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

Duende

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僕のワイフちゃんが、手づくりソープのWEBショップをOPENしました。
我が家では、数年前から妻手製の石鹸を使用しています。
手づくりなんで見た目はアレですが、お肌はスベスベ。

どうぞ『Duende』をよろしくお願い致します。

テーマ : 日用品・生活雑貨
ジャンル : ライフ

貴女の笑顔が見たいから



嗚呼・・・、ため息が漏れるほどに美しい。下ネタで汚れきった心が、浄化されるかのようです。
御年75歳の歌声とは、とても思えません。いかなるものにも束縛されない声とでも言いましょうか?
歌声そのものが、和平を願うアラブの心を体現しているかのように、穏やか。喜怒哀楽を超越しています。
そんな女神の歌声に寄り添い、吐息を絡めるのが、息子さんの手がける静謐なプロダクションなんですが、
ジャズへのアプローチも垣間見せるアーバン・ポップな展開で幕を開け、次第にジャンル名「フェイルーズ」
としか言いようがない独自の境地へと、ゆっくりと羽ばたいていきます。これほどの親孝行があるでしょうか?
誰よりも母のことを理解する息子が、母の歌を世界に響かせるために、最高のクオリティを誇る楽団を率い、
アラブ歌謡そのものに改めて魂を吹き込むかのような音を精製するんですから、やはり他とは格が違います。

フェイルーズさん、息子さんの為にも長生きしてくださいね。
そして、いつしか中東に平和が訪れることを願っています。
だって、貴女の笑顔が見たいから・・・。

FAIRUZ / EH FI AMAL

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

脅威のザーメン・ブギー



当ブログに何度か登場している学生時代の親友T君の性癖について、一筆したためておこう。
T君には風変わりな収集癖があり、それは例えば自身の爪や瘡蓋であったりする訳なのだが、
究極は、自慰行為によって外界に放出された精液を、牛乳パックにて保存するというものである。
そうすることによって彼は、受精という目的を果たせなかった分身たちの行く末を、見守っていたのだ。
だが、あるときT君はしくじった。精液を補充しようとした際に、局部先端が牛乳パックの口に触れてしまう。
そして、瞬く間にT君の局部は腫れ上がった。さらには薄皮がベロンベロンに捲れて、それはもう悲惨だった。
以来、T君は精液コレクションを手放した。いまでは美しい奥さんとの円満な家庭を築いているとのことである。
真っ当な道を歩んでおられる方々は、理解に苦しむだろうが、これが現実である。人間とは不可解な生き物だ。

さて、ここらでサンフランシスコ出身のゲイ・カップル、マトモスの通算6枚目のアルバムの話題へと移ろう。
本作はヴィトゲンシュタインや、ラリー・レヴァン、三島由紀夫・・・といった人物をテーマに制作されている。
ひとりの人物に対して一曲というコンセプト・アルバムである。曲調も多様。と言うよりは取り止めがない。
しかし、侮ってはならない。企画倒れのイロモノなんかじゃない。緻密に作りこまれた極上の変態ポップなのだ。
もともと偏執狂的なサンプリング・コラージュを得意とするマトモスだが、本作でも彼らの嗅覚は冴え渡っている。
なんたって、自慰行為によって外界に放出された精液が床に付着する際の音を採集し、それをSEに用いたり、
セックス時に男女の局部が擦れ合う音をループさせ、スカムなブレイクビーツと混ぜ合わせている。
そんな精液哀歌で美声を響かせるのは、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのアントニー・ヘガティである。
まったくもって、吐き気を催すほどにデカダンス! 他にも、蝸牛にテルミンを演奏させたりもしてる(笑)。
真っ当な道を歩んでおられる方々は、理解に苦しむだろうが、これも音楽である。音楽とは不可解な行為だ。

MATMOS / THE ROSE HAS TEETH IN THE MOUTH OF A BEAST

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

マリの至宝、伝説の光

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小屋の片隅に、気配がある。藤編みの籠の中に、その子の気配は。
この世に生を受けたばかりの、あらゆる面に於いて未満の、未成熟の赤子。
赤子の母親は、黒い肌。父親も黒い肌。一族は黒い肌。しかし、赤子の色彩は。
色彩は、白。眩いほどの白。頭頂には銀色の髪。厳密には白ですらない。赤子には、ない。
色彩が。生まれながらにして、赤子にはあるべき色彩が、ない。それは極めて美しい欠色=アルビノ。
赤子は母親を求めて、泣き声を上げた。その声は、小屋を震わせ、村中に響き渡る。村人たちの手が止まる。
母親は瞳に涙を浮かべて、赤子を抱き上げた。無色の我が子、奇跡の声を持つ欠色の男児、サリフ坊を。

僕に上記のような妄想を紡がせてしまうほどに素晴らしい歌声を持つ、マリのシンガー、サリフ・ケイタ。
恥ずかしながら、彼の作品は、世紀の傑作と名高いソロ・デビュー作の『ソロ』しか聴いていませんでした。
で、今年に入って、ようやく05年の『ムベンバ』を購入するに到ったのであります。きっかけはquestaoさん。
尊敬する兄貴、questaoさんが、サリフの『ムベンバ』をディケイド・ベストに選出しておられた訳ですよ。
結論から言いますと、いままで聴いてこなかったことを後悔しましたね。壮大なスケール感と圧倒的完成度。
『ソロ』で聴けた鋭利な歌声に、円熟味が加味され、包容力のようなものまで感じさせてくれます。
アコースティックな伴奏や多彩なコーラス・ワークも非の打ち所がなく、これこそアフリカ音楽に於ける洗練の
極みではないかと。まさにマリの至宝、伝説の光と呼ぶに相応しい歌い手ですね。questaoさん、おおきにです。

SALIF KEITA / SORO
SALIF KEITA / M'BEMBA

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

素顔のままで・ファイナル



枝雀さんは仰った。

いつの日からか、自分の素顔がわからなくなりました。
私の笑顔は偽りだとも言われます。それでもかまいませんよ。
仮面を被り続けることで、それがいつしか自分の素顔になるかもしれません。
ならば、楽しい仮面の方が良いでしょう。だから、私は笑います。笑顔の仮面を被り続けます。

枝雀さんが最後の最後に仮面を外し、あの結末へと到ったのであれば、それはあまりに悲しすぎます。
演目を終えて、舞台袖へと捌けて行く枝雀さんの横顔が、多くのことを物語っているように感じるのは、
恐らく私だけではないでしょう。希代の爆笑王の微笑みは、私に「笑い」の厳しさを教えてくれるのです。

テーマ : art・芸術・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

冷たく流るる血



1950年代にアメリカの片田舎で実際に起きた一家惨殺事件。
凄惨極まりない悪夢のような事件を、5年の歳月をかけて追った渾身のルポタージュ。
おそらく誰が読んでも、心を掻き毟られるのではないでしょうか?
幽霊だ、ゾンビだ、とか言ってキャーキャー言うてますけど、人間ほど恐ろしいものはありません。
文字に変換されているとは言え、加害者ペリーと正面から向き合うのには、強烈な苦痛が伴います。

植物が必ずしも真っ直ぐに育たないのと同じで、「あるべき姿」が分からないままに成長してしまう人間もいる。
人間は、その捩れを意識的に修正することは可能なんでしょうか? どうか教えて下さい、夜回り先生。
本書を読んで、僕は日本の「彼」のことが何度も脳裏を過ぎりました。生かされることを許された「彼」。
それは捩れを修正するための時間を与えられたと言い換えることができるのかもしれません。

『冷血』はミステリーの類いではないので、はっきりと申し上げますが、ペリーにはその機会が与えられません。
つまりは極刑に処されるのです。魂を絶つこと、捩れを断つことで、ひとまず人間は人間から眼を背けるのです。
僕には分かりません。人間を裁くということの真の解決策が・・・。裁かれるべき人間が存在するのも事実で・・・。
確かなことは、僕たちの体内には、熱い血だけではなく、冷たい血も流れているということですね。
それが捩れを生み、そして、目を覆いたくなるような惨劇につながっていくということなのでしょう。
クリスマスに、こんな話題で、本当にすみません(笑)。

トルーマン・カポーティ / 冷血

テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

すべてが穏やかだ・・・



多くを求めず、自分のやるべきことをやり、家族や仲間との時間を大切にする。
主張があるならば、自ら創造し、如何なる者にも媚びてはならない。

アンダーグラウンド・レジスタンス(以下、UR)という存在を知り、上記のような人生哲学を学んだ。
思春期に彼らの音楽に出会わなければ、いまとはまったく異なる人生を歩んでいたかもしれない。
彼らの音や、言動、スタンス、それらすべてが、青臭いガキの精神的支柱になっていた。いや、いまもそうだ。
URの12インチ・レコードに針を落とせば、いつだって僕は勇気づけられる。目を閉じれば宇宙にだって行ける。
テクニックだけが音楽をスウィングさせる訳じゃない。感情が、熱量が、魂が、音楽をスウィングさせる。

雷鳴を轟かせながら、地響きのようなトライバル・ビートが迫る「Amazon」を聴いて欲しい。
美しい循環コードのリフが天高く舞う「Jupiter Jazz」を聴いて欲しい。
そして、魂を揺さぶる「Hi-Tech Jazz」を聴いて欲しい。

決して大袈裟な表現ではなく、これらの楽曲は、いまでも僕の涙腺を崩壊させる力を持っている。
今日、きっと彼らはデトロイトのゲットーで、地元の人たちを集めて、クリスマス・パーティをやるんだろうな。
見張り役のマイク・バンクスは、夜空を見上げるかな? 僕は見上げよう。URの美しい名曲に、身を委ねながら。
『WORLD 2 WORLD』のアナログ盤面には、以下のような言葉が刻まれている。

「ALL IS CALM FOR NOW」

Galaxy 2 Galaxy / a hitech jazz compilation

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

リリカル・ハミング・バード



『モロイ』(サミュエル・ベケット著)という小説の中に、面白いオウムが登場します。
極めて清楚な淑女に飼われているオウムなんですが、こいつが実によく喋るのです。
首を傾げ、じっくりと思案した後に言い放ちます。「この売女の、助平の、糞たれの、たれ流し」。
それを聞いたモロイは思います。「私は彼女を理解するより、オウムのほうをよく理解した」。
なははは、やっぱりベケットは面白い。これほど背筋がゾーッとする状況も、そうそうないでしょう。
清楚な女性の愛玩動物が放つスラング。「この売女の、助平の、糞たれの、たれ流し」。なははは。

と、例によって脱線トリオな前置きを経てのピシンギーニャです。ライスレコード曰く、ブラジル音楽の父。
僕の数少ないブラジル音楽コレクション(と言えるほどの数もない・・・)の中でも、特に好みの一枚ですね。
ベケットの描いたオウムではありませんが、ピシンギーニャのフルートも、実によくさえずります。そう、
ショーロやジャズやアフロの狭間を飛翔し、極めてリリカル(叙情的)なさえずりを聴かせてくれるのです。
僕はオシャレなカフェなんかで流れているオシャレなボサノバなんかが苦手で、ブラジル音楽そのものを
長らく敬遠していたんですけど、この天才フルート奏者は別格。もちろん詳しいことは何も知りませんよ。
ただ、音のみに魅了されました。絶妙にブレンドされた「黒さ」と「白さ」。大衆を鼓舞するパーカッション群。
こんなのがカフェで流れてきたら、コーヒー16杯は軽いでしょう。嘘です。コーヒー飲めません。

PIXINGUINHA / O MAESTRO DO BRASIL

テーマ : 音楽
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若い者には負けません



プランテーション店長が発掘し、東京レコ・オヤジさんが『オヤジ四人衆』というタイトルで
全国に宣布された70年代ヴィンテージ・ルークトゥンの名盤コンピレーション・アルバムです。
ペルーのじっちゃんセッションに匹敵する内容ながら、こちらはもっとメタボリックと言いますか、
血糖値高めの楽曲が、これでもかと目白押し。クリオージョ音楽とは対極のフェロモンが漂っています。
でもやっぱりタイはこうでなくっちゃ。僕は本作がきっかけで、まとわりつくタイ音楽の虜になりました。
一部のクラブ界隈で「毒キノコ」的サウンドとして注目を集めるデジタル・クンビアなんかとは、まるで比較に
ならないほどの中毒性があります。普通の椎茸なんだけど、マジックマッシュルームの効能も含有している
とでも言えば、ご理解いただけるでしょうか。しかも、こちらは70年代ですから。遡る未来ってやつですね。

若かりし頃の武勇伝を語り合っていたオヤジ連中が、次第にエキサイトしてきて、「いやいや、ワシらは
まだまだ若い奴らにゃ負けん!」と意気込むかのように、ラストの曲ではエレキギターが唸りを上げます。
しかし体力の衰えは顕著で、すぐに心拍数は180オーバーの心臓ばくばく状態。結果、「やっぱりワシら
ケーン(笙)とラナートエク(木琴)で充分ですわ」なんていう展開が、無駄に涙と笑いを誘います。
ワイポット・ペットスパン、ローム・シータムライ、サマイ・オームワン、スワン・サンティ=オヤジ四人衆の
メタボリック・ファンクネスによって、今日もダラダラと日が暮れる。それで良いのだ、と思わせられる傑作。
ハズレ曲なし。7曲目なんて、まるでジ・オーブが手掛けたかのような、アジアン・アンビエントですよ。

V. A / 4 クンポンプレーン

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

師走に走って3針縫う



マヤ文明崩壊前夜とか、そんなことは微塵も感じさせない怒涛の138分。
手に汗握りすぎて、運命線がレクイエム。忘我の境地に陥る体験型ビルドゥングス・ロマン。
描かれるのはたったの数日間、しかし濃密な、あまりに濃密な数日間。あの場には居たくない。
カメラや脚本の存在を忘れる。いや、そんなもの本当に存在するの? これって本当に映画なの?
いや、いや、そりゃ、もちろん映画でしょ。うーん、素晴らしいなぁ。ハリウッドの底力に震えるね。
これも、ほとんどストーリーなんてありまへんで。一族の兄ちゃんが猛烈に走る。走って、走りまくる。
なぜって? 追われているから。追う者、追われる者だけを捉えた138分。こんなの『鉄男』以来でしょ。
そして「追う者は追われる者に勝る」という定説を覆す。それを目撃するのは138分の鑑賞に耐え抜いた者。

ここで、突然の私事。昨日、いつものように妻と自転車でツーリングに出かけたときのこと。
坂道の前方から凄まじい勢いで加速してくるママチャリの存在に気付いた。が、遅かった。
僅かに反応が遅れて接触、僕の右手中指の肉が抉れた。そのまま妻に連れられて病院直行。
3針縫う地味な怪我を負った。地味だが痛かった。泣きそうになった。だが、妻の手前、我慢した。
それにしても、あのママチャリは速かった。『アポカリプト』の兄ちゃんばりに速かった。
そんな訳で、みなさま。師走に走るの、気をつけて! 『アポカリプト』にも気をつけて!

メル・ギブソン監督 / アポカリプト

テーマ : 映画
ジャンル : 映画

アナタが分からない、だから惹かれる



1992年にURが最初のアルバムを出したとき、当時『ミュージック・マガジン』のあるライターは、
「こんなものは黒人音楽ではない」というような調子で酷評していたらしいですね。酷いな、まったく。
これはライター殿の狭量な考えを、自ら露呈してしまっていると言わざるを得ないでしょう。
他人の考えや、言動、作品、モチベーションなんてものは、そう簡単に理解できるものではありません。
人種が異なれば、尚更ですよね。分からない、だからこそ面白いし、驚嘆するのです。
「こんなものは黒人音楽ではない」、何をもってそんなことが言えるのか、笑止。笑止の至りです。

一転、19世紀ロシア文学界最大の巨匠、フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキーは言います。

他人をくそみそにこきおろすことも、俺は何でもできる、何でも『俺の思うまま』なのだということを、
他人に思い知られることもできるのだ、つまり哀れな者なら考えることもできないようなことが、
自分には出来るのだと思い込みたいのである。


著者の4年間の獄中の体験と見聞の記録である『死の家の記録』には、様々な囚人が登場します。
それらの人物が詳細に描写されるのですが、ドストエフスキーのような人物を以ってしても、
彼らは計り知れない存在として描かれるのです。分からない、だから感嘆に値するという訳ですね。
本書にストーリーはなく、ひたすらに人間観察の記録が続いていくのですが、登場人物のひとりひとりが、
本書にとっての思考になっています。小説とは究極的に思考の塊であると思うので、本当は物語なんて
必要ないのかもしれません。肉体という牢獄に囚われた魂を、開放することなど、不可能なのです。
永遠に囚われた思考の片鱗を、辛うじて言葉に転化し、書物として残す。その最大の成果が本書であり、
ドストエフスキーという脅威の書き手による、究極の悪あがきなんです。騙されたと思って、新潮文庫版の
190ページから続く世にも奇妙な会話を読んでみてください。計り知れない他者との関係が、炸裂しています。

フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー / 死の家の記録

テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

2010眠らせない音楽BEST10

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1.豊田道倫 / バイブル
2.GIOVANCA / WHILE I'M AWAKE
3.GEORGE DALARAS / GI AFRO IPARHOUN I FILLI
4.AMAZIGH KATEB / MARCHEZ NOIR
5.LOS GUARDIANES DE LA MUSICA CRIOLLA / LA GRAN REUNION
6.CORNELIO REYNA / CORNELIO REYNA
7.ARTURO ZAMBO CAVERO & OSCAR AVILES / CONTIGO PERU
8.ALAIN PETERS / PARABOLER
9.TUENJAI BOONPRRUKSAR / MAE BAEB PLENG LUKTHUNG VOL.1
10.OM.SONETA & RHOMA IRAMA / BEGADANG,PENASARN

1~5が新録、5~10がリイシュー。
やはり、豊田さんの脅威のダウナー・トリップが圧倒的でした。まるで『神曲:地獄編』です。
だるまさんの『SKILL & CONCEPT』や、やけさんの『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』も素晴らしかった。
エルスール・レコーズとプランテーションのお陰で、ゾクゾクするような音楽にたくさん出会えました。
そして、ブロガーさんたちとの音楽を巡る交流も、僕にとっては、大きな刺激となりました。
みなさまに心から感謝を。どうも、ありがとう。
・・・って、何かひとつ忘れてないかって?
ええ、ええ、分かっていますよ。上半期ベストだと豪語したオマール・ソウレイマンのことでしょ?
ええ、ええ、そうなんです。率直に申し上げまして、飽きちゃったんです。そういうことなんです(笑)。

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

2010眠らせない文学BEST3

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1.佐々木 中 / 切りとれ、あの祈る手を
2.チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ / 半分のぼった黄色い太陽
3.ロベルト・ボラーニョ / 野生の探偵たち

新刊はそれほど読まなかったのですが、上記の作品は群を抜いて素晴らしかった。
テーマはポリフォニー、つまり多声性です。3作品の中に渦巻く、いくつもの声、声、声。
それらを辿ることで読書は、ひとつの小さな「革命」へと結実するのです。読書は暇潰しではありません!

テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

2010眠らせない映画BEST3

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ではでは、ゆるゆると本年度の締めに入っていきましょう。まずは映画から。お手柔らかにどうぞ。

1.塚本 晋也監督 / 鉄男 THE BULLET MAN
2.ジャン=ステファーヌ・ソヴェール監督 / JOHNNY MAD DOG
3.井筒 和幸監督 / ヒーロー・ショー

剥き出しの鋼鉄、剥き出しの戦場、剥き出しの暴力、ってことで、剥き出し三昧のチョイスです。
何を感じるかによって、作品の評価は大きく分かれるとは思いますが、僕にとってはトラウマ級の衝撃でした。
目を背けたくなるような映像の連続、しかし、見てしまったのです。もう、忘れたくても忘れられない。
鑑賞は「経験」として、僕という人間の一部に刻み込まれたのです。文句なしの3作品であります。はい。

テーマ : 映画
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食い違う証言



<証言1>
私がジャンプショットを決めようとしたときに、不意に背後から暴行を受けました。
あまりに一方的な暴力に、私は自分の身を守ることで精一杯でした。
何とか身体を丸めて頭部を庇っていたのですが、不意にアナルに強烈な痛みを覚えました。
臀部に視線を向けると、そこには深々とキューが突き刺さっており、私は気を失いました。
あちらのカップルとの面識はございません。私は被害者です。

<証言2>
ゲーム中、あの野郎が何度も俺の女にちょっかいを出していた。
はじめのうちは見逃してやったが、図に乗ったあいつの愚行は次第にエスカレートしていった。
遂には女が悲鳴を上げたよ。「あいつに胸や尻を触られた」ってな。さすがにキレるぜ。
野郎がジャンプショットを決めようとしているところを、ぶっ飛ばしてやったよ。
だがな、これだけは言っておく。むしろ被害者は俺の女だ。あいつらとは何度もここでゲームしてる。

<教訓>
メンタル・スポーツとも言われるビリヤードを楽しむためにも、精神面の鍛錬を怠らないように。

V. A / ELECTRIC CAMBODIA - presented by Dengue Fever

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

父に捧ぐ

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オヤジの背中を意識し始めた頃には、すでにオヤジの背中は丸くて小さくなっていた、なんていう話を聞く。
アルジェリアのカスバで産声を上げた民衆歌謡シャアビ、そのシャアビを移民社会に根付かせたダフマン。
そんな偉大な人物を父親にもったカメルにとって、オヤジの背中とはどのようなものだったのだろうか。
まぁ、オヤジに対する想いだけで、アルバム1枚制作してしまうくらいだから、相当の憧憬を抱いていたに
違いない。ダフマンの歌は、フランス社会の抑圧に脅える移民たちにとって、郷愁そのものだったと言う。
彼のしわがれた声が、多くの人々を鼓舞し続けていたのだとしたら、ダフマンはカメルだけの父ではない。
カメルは本能でそれを悟り、だからこそ、オヤジの楽曲に正面から挑まずにはおられなかったのではないのか?
両者を比較することに意味はないが、それもまた偉大な父を持つカメルの宿命でもある。そんなことは本人も
承知の上だろう。それでも彼はマンドーラを手に取った。そして歌った。オヤジの歌を。オヤジの悲哀を。
なぜなら、そこに背中があるからだ。超えていかなければならない、大きな大きな背中が。
カメルのシャアビはオヤジのそれに比べて、良くも悪くもシャープな仕上がりだ。現代的というのは容易い。
そんなの批評でも何でもない。カメルは自分に嘘をつけなかったんだ。それゆえのスピード感ではないだろうか?
僕は勝手にそう解釈している。数曲収録された自作曲では、オヤジの向こう側に行こうとする、意志を感じた。

どうでも良い余談なんだけど、僕の家は自転車屋だった。いまはもうない。不況の波に攫われた。
だけど、僕にとってのオヤジは、いつまでも自転車屋の店主であり、自転車バカだ。
僕はいまになってオヤジの背中をしっかりと見据えた。小さかった。小さく、遠かった。
そう、どんなにペダルを強く踏み込んでも、まだまだオヤジには追いつけないんだ。悔しいぜ(笑)。

↓こちらが我が父、繁盛亭オヤジ(60歳)
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DAHMANE EL HARRACHI / YA EL HADJLA
KAMAL EL HARRACHI / GHANA FENOU

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

繁盛亭に灯る、光

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日頃からお世話になっている才女、のぐっちさんから素敵なプレゼントをいただきました。
なんと手づくりのステンドグラスを用いたランプです。我が家の簡素な6畳間に灯る魅惑の色彩。
うっとり見惚れて、時間が流れ、愛猫ミューモもご満悦。のぐっちさん、美しい光を本当にありがとう。

のぐっちさんの『utakataのステンドグラス制作日記』も是非ともご覧下さい。

テーマ : art・芸術・美術
ジャンル : 学問・文化・芸術

BOLLYWOODOMMUNE



昨日のBOLLYWOODOMMUNEがとても面白かった。サラーム海上さんがトークとDJで大活躍。

「推定視聴者20億人以上、地球上に暮らす人類の1/3以上が鑑賞し、泣き笑い、一喜一憂する地球最大級の
エンタテインメントがインドの誇るボリウッド映画。インド亜大陸だけでなく、東南アジア、中東、アフリカ、
そして今ではイギリスやドイツでもハリウッドに負けない影響力を持ち始めている。そんなボリウッドの音楽
とダンスについてのトーク&ダンス&DJイベントを渋谷のライブストリーミングスタジオDOMMUNEより全世界に
同時配信する」・・・という内容。サラームさんの理路整然とした解説が、すごく勉強になりますね。
ボリウッド音楽を心の底から愛しておられるということが、PCを通してひしひしと伝わってきましたよ。
もちろんダンサーのお姉さま方も、とても素敵でした。ボリウッド映画ばりに濃厚な3時間だったと思います。

そんなサラームさんがボリウッド音楽の深みにハマるきっかけになったのが、『ディル・セ』のサントラ盤とのこと。
中でも冒頭曲「チャイヤー・チャイヤー」への熱い想いが炸裂していました。確かに素晴らしい曲ですもんね。
僕は数年前にこのCDを大阪のインドカレー屋さんで購入しました。確か400円くらいだったかと思います。
で、大した期待もせずに再生させた訳ですが、あまりに洗練された音が流れてきて驚きました。
サラームさんが仰るように、マッシヴ・アタックをも消化したような仕上がり。それでいてインド色は濃厚。
バグパイプとシンセベースが織り成す音の錬金術、キャッチーなメロディに、誰もが口ずさみたくなるサビ。
これはどっからどう聴いても、最強のポップス強度(@questaoさん)を誇る一曲じゃないですかー!
サラームさんのような方が、リスクを負ってボリウッド音楽という鯛の身をほぐしてくれるからこそ、
こうして僕たちは美味しい一曲にありつけるってことですね。ごちそうさまです。

A.R. Rahman / Dil se..

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

論より証拠DUB

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マイケル・E・ヴィール『DUB論』に対抗して、繁盛亭DUBクラシックを列挙してみました。
薀蓄たれるよりも、実際に音を聴いてトバされようってことで、究極の5枚です。お手柔らかに、どうぞ。

1.AUGUSTUS PABLO / ORIGINAL ROCKERS
  『Rockers Uptown』と双璧を為す名盤中の名盤。ドンギマリのジャケ写が全てを物語っている。

2.THE CONGOS / HERAT OF THE CONGOS
  あまりにプリミティヴなサイケデリック・ジャニー。エフェクトの向こうにアフリカが霞んで見える。

3.AFRICAN HEAD CHARGE / SHRUNKEN HEAD
  アフリカ、ラスタ、ダブ、サイケが渦巻き、強烈なカオスを生む。音のうねり方がハンパじゃない。

4.NEW AGE STEPPERS / NEW AGE STEPPERS
  アリ・アップが歌う1曲目「Fade Away」の素晴らしさよ。貴女の突然の死は、あまりに悲しすぎる。

5.CREATION REBEL / Starship Africa
  全編に炸裂するエイドリアン・シャーウッドの狂気。過激なミキシングに、DUBって何?って思う。

以上、晩酌時の酒の肴に。

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ディストピアからの警鐘



アラン・ローマックスがハイチで採集した音源をまとめたボックスが各方面で絶賛されているようですが、
残念ながら、手が出ません。そりゃ、聴いてみたいですよ。でも今の僕に1万5千円はちょいとキツい。
なので、ってことでもないのですが、ハイチ移民の娘が中心になって結成されたアーケイド・ファイアを
繰り返し聴いて、涙を滲ませている訳であります。ええ、涙なしには聴けませんよ、この声。この歌詞。
ストリングスやアコーディオンを導入したメランコリックなサウンドをバックに、ヴォーカルのバトラーは
悲痛な歌声を響かせる。彼は何度も執拗に呼びかけるんです。

「子供たちよ、目覚めて!」
「あいつらが夏を灰にしてしまうその前に」

映画『かいじゅうたちのいるところ』のCMソングに採用されたというのも納得です。
アーケイド・ファイアの鳴らす警鐘は、危ういディストピア・ロックとして子供たちの枕元に降り注ぐ。
目覚めるのか? 踊りだすのか? 悲しみはあるか? カタルシスは? 子供たちよ?

ARCADE FIRE / FUNERAL

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繁盛亭アルバイテン

Author:繁盛亭アルバイテン
ヒッピー・ボヘミアンな生活に憧憬を抱く浪速のポンコツ。
物心ついたときから寝つきが悪い。

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