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夜と灯りと



みなさま、こんにちは。上司から「エヴァンゲリオン初号機に似ているね」と言われた繁盛亭です(笑)。
大変名誉なことなので、今後も地球を救うために、素晴らしい音楽や文学を紹介していきたいと思います。
やい、内田樹さん。ストなんてやっている場合じゃねぇーぞ!

ってな訳で、『夜と灯りと』の話でも始めましょうか。
ドイツのアンファンテリブル。全身刺青まみれの新進作家、クレメンス・マイヤーの短編集でございまーす。
いやぁ、こういう不良の臭いをプンプン漂わせている小説には、無条件で反応してしまうものです。
まぁ、しかし、正直に申しあげまして、不良文学の世界ってのは、玉石混淆が常であります。
勢いだけで過去の武勇伝を捲くし立てるような作品は、読みたくありません。何でもセンスが肝心ですね。
そういう点から言っても、こちらのマイヤー氏は相当の敏腕家、テクニシャンです。

まず特徴的なのが、ミニマルな語り口。説明的な文章が、皆無です。
しかし、だからこそ、読者はラストの一行に打ちのめされるのですよ。
言葉が齎す影響ってのを、改めて考えさせられました。マジな話、ちょっとチビリそうになりました。
残酷描写とかどんでん返しとかのことを言っているのではありません。むしろ逆。そういう作為的な書き方を
していないから、もろに不意打ちを喰らうんです。なんでもない普通の言葉が、戦慄の一言に。あー、怖い。

ドイツ統一後も、旧西側に比べ、旧東側は経済状況が改善されていないらしく、マイヤー氏が描くのは、
そんな旧東側でひっそりと暮らしている孤独な人々。俗に言う「負け組」の人生に、そっと灯りを燈します。
元ボクサーの囚人、夜勤のフォークリフト運転士、教え子に恋するロリコン教師、オーヴァードーズする画家。
マイヤー氏は彼らの人生を通して社会へのアンチテーゼを掲げる訳ではなく、あくまでも静観しています。
真の作家とは、何気ない言葉を発するだけで、社会性を浮かび上がらせることができるのでしょう。
時間軸や感情を綯い交ぜにすることで、登場人物たちの内面の葛藤を際立たせるという離れ業も披露。お見事!

それにしても、ひとりの失業者と愛犬を描いた「犬と馬のこと」の素晴らしさは、言葉では言い尽くせません。
あと、外国人娼婦に入れ込んで妻も仕事も捨ててしまう「君の髪はきれいだ」はまるで花沢健吾の世界観です。
題材はダーティでも、読み心地は清々しく、それでいて、恐ろしく、だからこそ、切ない。
みなさまにも未だかつてない読後感を提供してくれることを約束します。クレメンス・マイヤー、只者じゃない!

クレメンス・マイヤー / 夜と灯りと
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テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

幻のアフリカ



ずっと読みたいと思っていたが入手困難、もしくはあまりに高額のために手が出なかった一冊。
念願叶って待望の文庫化。もちろん即購入。とは言え、文庫で2,800円、総ページ数1065頁のメガ・ノヴェル。
今月はこいつをずっーと夢中で読み耽っていたので、ブログの更新が若干スローダウンしてしまった。

この重厚極まるモンスター書籍は、一体なんなのか?
簡単に言うと、ダカール=ジブチ・アフリカ調査団に書記として同行したフランス人作家による日記である。
記された期間は、1931年5月19日~1933年2月16日まで。この間、1日も欠かすことなく書き付けられている。
当然のことながら、本書は民俗学調査の正式文書であることを大前提としている。だが、何を血迷ったのか、
日記には学術書の範疇には留まらないあんなことやこんなことが詳細に書き留められているのだ。
例えば、セリマンという現地ガイドにまつわるエトセトラ。以下、抜粋。

今朝、セリマンが自分のために小さなオウムを買った。
昼間、ティエモロがセリマンに向かって、彼のオウムは大きくならないだろうし、
それを買ったのは金を盗まれたようなものだと言ったものだから、セリマンは今にも泣き出しそうだった。


知らんがな! そんなんどうでもええわ! いやいや、これが、どうしてなかなか面白い。
このような具合に、調査記録に混じって、どうでもええようなことや、突然の先進国批判や、スケベな妄想や、
不平不満や、自分の次回作の構想なんかが、縦横無尽に駆け巡っていくのである。要するに何でもありなのだ。
ときには雄弁に、ときにはダラダラと、すべてはその日の気分次第。そら調査団・団長とも決裂するわいな(笑)。
けれど、レリスのおっさんの筆は無闇に暴走していた訳ではない。ある思想に基づいての確信的行為なのだ。
それはつまり、人は最大限の主観性を通じて、客観性に達するという、彼なりのモラルである。
ザールの供犠が行われた際、生け贄である羊の血を飲んだ女性が口をすすいでいる光景を見て、
客にフェラチオをしたあとに、目の前で臆面もなく歯を磨く娼婦の姿を思い出すあたりは、背筋がゾクゾクした。
なんてリアルな表現だろうか! この感性を発端に、我々の足元から、幻のアフリカが立ち上がってくる気がした。

それに、ミシェル・レリスは奇を衒っている訳ではない。むしろ誰よりも真摯なのだ。僕はそう思う。
正直言って、アフリカの地での調査団の行いは傲慢そのもの。それを我が目を通してあるがままに描写し、
世界に伝えようとしたミシェル・レリスは、例えスケベな妄想に耽ろうが、夢精を連発しようが、真摯なのだ。
この先、僕は一生かけて本書を読み続けていくだろう。幻のアフリカ、そのまた幻を求めて・・・。

根をつめて仕事。ある程度精を出してやってはいるが、情熱は一かけらもない。
僕は憑依者たちを研究するよりは憑かれたい。《女ザール》の詳細を科学的に知るよりは、
《女ザール》を身体で知りたいのだ。抽象的な知識など、僕にとっては二の次のものでしかない。


ミシェル・レリス / 幻のアフリカ

テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

エーゲ海に揺らぐ想念



ギリシャでのダラーラスの音楽的野心に、トルコ側から呼応するかのような活動をしている人がいます。
それが、哀愁のアコーディオン弾き、ムアメール・ケテンコグルーさんです。
かつてはアイデ・モリというユニットを組んで、地中海周辺に残存するフォークロアを取り上げるなどして、
マイノリティの息吹を、そして底力を、存分に堪能させてくた音楽家ですね。

そして、こちらのソロ名義作では、第一次世界大戦後に行われた住民交換以前の、
イズミールにおけるギリシャ系音楽やユダヤ系音楽を採集し、再現/再構築しているようであります。
アコーディオンや各種弦楽器の哀愁を帯びたメロディーが、東淀川の6畳間にまで潮風を運んできてくれます。
強烈な個性を感じる訳ではありませんが、ゲスト・ヴォーカル陣の軽やかな歌声も、とても耳に心地良いです。
特にラストに収録された「YALO YALO」は、いつ聴いても涙腺が刺激されます。
こんなにも哀切をまとったアコーディオン奏者を、僕は他に知りません(僕が知らないだけ)。
ダラーラスの『MIKRA ASIA』と合わせて、是非とも多くの方々に聴いていただきたい一枚です。

MUAMMER KETENCOGLU / SMYRNA RECOLLECTIONS

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麗しの月下氷人

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スタジオ録音新作にライブ盤に旧作リマスターにと、今年は本当にダラーラス漬けの日々を送っています。
どれも甲乙つけがたい程に素晴らしいという中で、こちらの旧作リマスターの2作品は特にツボでした。

いずれも70年代の作品なんですが、ダラーラスの歌唱には、既に有無を言わせぬ魅力が備わっています。
ハリスとの『MIKRA ASIA』では、レンベーティカからライカへと移ろいゆく様をドラマティックに描写し、
20世紀前半のレンベーティカの名曲を綴った『50 HRONIA~』では、オーセンティックな演奏をバックに
先達たちの意思を、現在あるいは未来へと橋渡しするかのような、気高い歌声を聴かせてくれます。

レンベーティカとライカを、トルコとギリシャを、キリシタンとイスラム教徒を、体制と労働者を、
学術的に堅苦しく結びつけるのではなく、あくまでも音楽の力で紐解こうとする姿勢に、胸を打たれます。
『MIKRA ASIA』冒頭に収録された「By the Bosphorus Straits」で聴ける、以下のような素晴らしいラインは、
いまこそ世界中の人々が耳を傾けるべきものであると、私は確信します。ありがとう、ダラーラス。

Me Turkish...and you Greek. But we are similar folk.
You Christian...and me for Allah. But we both say “oh and woe”!


GEORGE DARALAS & HARIS ALEXIOU / MIKRA ASIA
GEORGE DALARAS / 50 HRONIA REBETIKO TRAGOUDI

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

赤パン・アジテーション

alimantado.jpg

非正規雇用の拡大? 増加する就職難民? 将来が不安? 生きづらい社会?
おいおい、眠たいこと言ってんじゃねぇぞ、ボンクラどもが。
キミらが求める将来的に安定した仕事なんぞ、ナンボのもんじゃい!
大切なのは「自分が何をしたいか」という明確なヴィジョンではないのか?
非正規雇用の拡大なんて、むしろ願ってもないチャンスじゃねぇか。
誰もキミらを拘束できやしないんだぜ。それって凄くないか?
それと、コンプレックスを抱えた卑屈なフリーターってのも、気に喰わねぇ。
オメーら、あわよくば勝ち組になりたいって魂胆が見え見えだぜ、バーロー。
社会がどーのこーの、世間がどーのこーのと喚き立てる前に、我に返れってんだよ。
社会の窓はすぐ手許にある。開け放て。そして、自分のナニと対峙しろ。話はそれからだ。
キミはキミ自身を奮い立たせ、自分だけの革命を起こすんだ。OK?

by 社会の窓を開けハナ党・党首 チャック全開くん a.k.a Dr.Alimantado

Dr.Alimantado / Best Dressed Chickn In Town

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

まんじゅうこわい

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見っけた 謎の生命体 毎夜いざなう 遥か別世界
そんな決定打 もったBabyGirl 手玉とる様は まるでベテラン
 「宇宙人」

関西きっての個性派ラッパー・だるまさんは、上記のような言葉で、女性という不思議な生き物を
巧みに描写しておられますが、それを90分かけて、じっくりと映像で見せ付けてくれるのが、
マーク・ウェブ監督の映画『(500)日のサマー』でしょう。いやぁ、これには参りました。
男から見たこの作品、ある意味『エイリアン』以上に恐ろしいパニック・ムービー、もしくはホラーです。

ズーイー・デシャネルさん演じるサマーに、多くの文系ヘタレ男子が一目惚れすることでしょう。
それが地獄の始まり。500日の恋愛監獄ロックだぜ、Baby。Baby。Baby。
「惚れてまうやろー!(古いギャグで申し訳ない)」を連発すること間違いなしの、サマーの小悪魔っぷり。
自分が好きな音楽を褒められたら、男なんてイチコロですよ。おまけに、あんなことやこんなことまでして。
それでいて互いの関係を「友達」だと言い切るサマー。そりゃ、あんまりっすよ、姉さん。
あんなことやこんなことがあって、結果、あれこれがそうなるのも、「運命」の一言で片付けてしまうなんて。
うーん、わからん。彼女が何を考えているのか、さっぱりわからん。求む!シガニー・ウィーバー。

マーク・ウェブ監督の凄いところは、最後までサマーの胸中を、表出させなかったこと。
男の視点を強硬採用することで、ありきたりな恋愛映画を回避し、抜群のオリジナリティを確立しています。
憎たらしいほどに完璧な演出ですね。その他、不意に始まるミュージカルや、8mmを用いた回想シーン、
理想と現実を同時進行で見せるスプリット・スクリーン、交錯する時間軸など、見所は満載です。
あくまでもポップを装いつつ、実のところ、とてつもなく恐ろしい映画。子供(童貞含む)は見ちゃダメ。
甘いラブ・ストーリーを期待していた人は、間違いなく腰を抜かすでしょう。夏は終わるもんですよ(笑)。

鑑賞後に妻が、ポツリ。アルバイテンは冷や冷や、ドキリ。
「サマーの気持ちが、よくわかるわぁ」

マーク・ウェブ監督 / (500)日のサマー

テーマ : 映画
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エチオピーーーク!



DJの川辺ヒロシ(TOKYO No.1 SOUL SET)さんが、フィッシュマンズやノラ・ジョーンズに続いて、
エチオ・ジャズの御大、ムラトゥ・アスタケの楽曲をスピンした瞬間に、空気の質が一変しました。
ヴィブラフォンの導くミステリアスな旋律が、小粋なダンスフロアをドロドロの演歌地獄へと昇華。
そう言えば、妻の恩師の自宅に招待された際、何気なくアレマイユ・エシェテを再生したときにも、
料理中の恩師の手が、ピタリと止まっていました。その表情には、困惑と悦楽の色が同時に・・・。
ソマリア出身のMCケイナーンの『トルバドール』を聴いても、耳に残るのはサンプル・ソースとして
用いられたエチオ・ポップの濃厚な後味だったりするのです。このアクの強さは、ハンパじゃない。
恐るべしエチオピーーーーーーーク!

ってな訳で、エチオピアの実力派ポップス歌手、ハメルマル・アバテさんの登場です。
こちらの『GIZE MIZAN』は06年作になりますが、晴れてCD化(当初はCDRのみでリリース)された模様。
まぁ、私、アルバイテンも遅ればせながらの入手。そして遅ればせながらに衝撃を受けた次第であります。

エチオピア特有の粘着質なグルーヴ、ウネりまくるホーン・セクション、そして、濃厚なメリスマ歌唱。
本作に関しては、チープなキーボードと打ち込みが、エキゾ指数を高めるのに一役買っています。
西洋楽器(ギター、ベース)と伝統楽器(縦笛、竪琴)による一進一退の攻防も、極めてスリリング。
洗練と泥臭さが適度にせめぎ合う、現在進行形のエチオ・グルーヴです。

ハチロク・ビートを基調にしつつも、曲想は幅広い。コテコテのエチオ・ポップスもあれば、
シタールとアコーディオンの音色を用いた、出自不明のエキゾチックな曲もある。
なかでも白眉は、8曲目。ホーン・セクションとオルガンの絡みが異常に格好良い「FITAGNE」。
この曲を聴いても気分が昂揚しないという方がいたら、心療内科への通院をお勧め致します。
ついでに言いますと、下半身が反応しないという方へは、泌尿器科への通院をお勧め致します。

それにしても、音楽同様に怪しすぎるこのジャケ。もうちょっとマシなアー写はなかったんかいな?
この化粧乗りの悪さ。いまどき場末のスナックでも通用しまへんで。CD化の際にブラッシュアップせーよ。
恐るべしエチオピーーーーーーーク!

HAMELMAL ABATE / GIZE MIZAN

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耳をすませば



田舎に居ようが、都会に居ようが、瞳を閉じて耳をすませば、そこに息づく「もの」たちの「声」が聴こえる。
山下敦弘監督の映画『天然コケッコー』には、そんな素敵なシーンが描かれています。

アルゼンチン音響派を代表するシンセサイザー/ピアノ奏者モノ・フォンタナの『CIRUELO』を聴くと、
まるで、世界のあらゆる場所に佇んで、耳をすませているかのような幻聴サウンドを楽しむことができます。
同郷の者たちによるプロフェッショナルな演奏の向こうから聴こえてくる、虫の声、動物達の声、子供の声、
鐘の音、花火の音、日本の魚屋の声といった、めくるめくフィールド・レコーディングの粒子。

そして様々な音楽の断片。チベットのホーン~アイルランドのバグパイプ~クラシック音楽~ブルガリアン・ボイス
~バリ島のケチャ~アフリカの音楽などがコラージュMIXされ、ファンタスティックな音の世界へと誘われます。

Mono Fontana / CIRUELO

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終わらない夏



夢も希望も砂まみれ 綺麗に汚れて輝いて 「DAY DREAMING」

いま現在、自分の音楽聴取の大部分をワールド・ミュージックが占めている訳ですが、
どうしても世界の音楽に対して、他者の音楽というか、隣の山の出来事という感触を払拭できません。
その得体の知れなさが面白いのは事実です。でも、ときには皮膚感覚で共感できる音楽も聴きたいものです。
だから僕は、日本語ラップやフォーク・ロックなんかを聴くことで、自分なりにバランスを取るようにしています。

そういう意味でも、YAKENOHARAさんの1stは、この国の「いま」の空気をしっかりと捉えた傑作です。
アルバムに漂うのは、スウィートで楽観的なムード。それと、良い意味での諦め。おまけに、優しさと解放感。
「勝ち負け」の二元論から脱却した、新たな価値観の芽生え。それは、見事に僕たちの胸中を代弁しています。
多彩な表情を見せるバックトラックの上には、YAKENOHARAさんの棒立ちラップ。その抑揚のなさが、逆説的に、
氏の芯の強さを物語っているようでもあります。どんなに周囲の景色やムードが一変しても、自分は自分らしく
歩んでいくだけ。そんな「言うは易く行うは難し」を、実にマイペースに実践するYAKENOHARAさん。
この先10年をも見据えた、僕らの為のアーバン・ソウル・ミュージック。これからもヨロシク。

僕達が見ている景色が夢だとしたら 最高にアホらしく笑えて スリル満点の夢にしよう
一瞬のまやかしだとしても 錯覚や幻想だとしても 信じていたいと思える何かを見つけたんです
この夏はきっと終わらないって なんとなくそう思った
You won't cry at summer end summer never end
まだ寝ません 
「Summer Never Ends」

やけのはら / THIS NIGHT IS STILL YOUNG

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貴重な時間をありがとう

kaada2.jpg

フランスの作家/民俗学者ミシェル・レリスの大著『幻のアフリカ』には、しばしば性的な考察が挿入される。
なかでも、個人的にとても興味深かった「手淫論」という箇所を抜粋してみようと思う。

手淫をしようとしている、或いはしつつある男の周りに見え隠れする姿が全く想像上のものであるにせよ、
或いはその姿が、ただ一つの思い出から、またはいくつもの思い出の合体から作られているにせよ、
手淫者が自分だけで満ち足りることは決してありえない。彼はこの、或いはこれらの束の間の相手に
外から支えられることを必要としており、自涜者が《自分だけで事足りる》とする通説は誤っている。
手淫の崇高さも惨めさも、こうした幻覚(男が射精した直後に消える)という性格に由来する。


ノルウェー映画祭・音楽部門の最高権威であるゴールデン・クラップ・ボード賞を史上最年少で受賞したカーダ。
彼の03年作『Thank You Giving Me Your Valuable Time』の素晴らしい幻惑サウンドと、レリスの「手淫論」は、
僕の中で、なぜかピタリと合致する。片や、ロック、ブルース、フェイク・ジャズ、アメリカン・オールディーズといった
雑多な音楽性を、偽りのノスタルジアで包み込んでいく奇妙なアティチュード。片や、空想上の遊び友達を懸命に
愛撫しようとする切実なアティチュード。僕にはそれらが同様のモラルを内包しているように思えてならないのだ。
カーダの音楽を聴くにせよ、手淫に耽るにせよ、行為のあとに残るのは、消費した時間の残骸だけである。
それは、危険なほどに退廃的で、しかし、どうしようもなく癖になる。

フェイス・ノー・モアのマイク・パットンとの共作『Romances』では、大所帯オーケストラをフィーチャーした
重厚なゴシック・サウンドを展開している。ソロ作ほどの中毒性や快楽性はないが、こちらも悪くない。
さぁ、お粗末な文章の終焉だ。右手でしっかりと自身を握り締め、躊躇することなく再開しよう。音と澱。
ここまで読んでくれたアナタへ、貴重な時間をありがとう。

Kaada / Thank You Giving Me Your Valuable Time
Kaada,Patton / Romances

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ナポレオン・ダイナマイト

napoleon.jpg

ここ数年で最も繰り返し見直しているコメディ映画。
何度観ても新たな発見があり、幸せな気分にさせてくれる素晴らしい作品です。

この際、『バス男』という愚劣な邦題のことは忘れましょう。原題は『ナポレオン・ダイナマイト』。
ジム・ジャームッシュや山下敦弘らを思わせる、オフビートなタッチが魅力の青春群像劇。
黄色いバスの手前で斜に構える冴えない男。彼こそが、主人公のナポレオン・ダイナマイト。
名前負けも甚だしいでしょ。おまけに、喋ると歯茎が出る。この時点で、早くも胸がキュンとなります。

登場人物たちはみな、多かれ少なかれ冴えない個性を抱え込んでいます。
いや、本人たちに抱え込んでいるという自覚がないので、実にあっけらかんとしています。
日本の「オタク」が陥りがちなダウナー思考ではなく、それぞれに上を向いて暮らしています。
退屈な日常の中で欠伸を噛み殺すのではなく、退屈な日常をこそ、精一杯にサヴァイヴするのです。
だからとても清々しい。個性は他人に認めてもらうものではなく、自分で乗りこなしていくものです。
やはり、人は最大限の主観性を通じて、客観性に達するということなんでしょう。ライドォォォン。

そして、物語の終盤。ジャミロクワイの「Canned Heat」をBGMにナポレオンがダンスを披露するシーンは、
『はなればなれに』や『パルプフィクション』なんかのそれと比肩し得る、名場面だと思います。
どうで死ぬ身のひと踊りってやつですよ・・・。褒めすぎですかね。まぁ、とにかく最高なんです。

たった400万程度の制作費で、40億超えの興行収入を叩き出したヘス監督は只者ではありません。
しかし本作は、今後、監督自身が乗り越えなければならない高い高い壁になったことも確かでしょう。
本当は説明するのも嫌なくらいに好きな映画なんです(笑)。今日もまた、ペドロの笑顔に癒されよう。

ジャレッド・ヘス監督 / ナポレオン・ダイナマイト

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良い子はマネしないでね



子供の頃、どんな嘘をついても、母には完璧に見破られました。
周到に計画した嘘であっても、母の手にかかれば、なぜかイチコロ。
子供ながらに納得がいかず、母の背後に、闇の組織の存在を勘繰ったものです。

そして、我が家の愛猫ツケ(♀)もまた、鋭い嗅覚の持ち主でありました。
猫バカ発言で申し訳ありませんが、ツケは本当に聡明で、まったく手のかからない子でした。
私にとって彼女は子供のようであり、親のようであり、まぁ、かけがえのない存在だった訳です。
そんなツケちゃんが、自慢の嗅覚を活かして、とんでもないことをやらかしてくれたのです。

話が少し脇道に逸れますが、私は性的欲求の捌け口として、AVのお世話になることがあります。
孤独な夜を幾度となく慰めてくれたAV女優の方々には、未だに足を向けて眠ることができません。
しかし、何の意地かプライドか、結婚して間もない頃、妻に向かって「俺はAVなんて絶対に観ない」などと
嘯いておりました。もちろん結婚してからも観ていましたとも。妻が寝静まるのを見計らって、こっそり・・・。
そんな一世一代の大嘘が、愛猫によって暴かれようとは、夢にも思いませんでした。

ある日のこと。
AVの入った鞄を、自宅リビングに放置したまま、職場に向かってしまいました。とは言いましても、
鞄のファスナーはしっかりと閉じていましたし、私の鞄を勝手に詮索するような妻ではありません。
ですので、その日、私の脳裏にAVの二文字がイタズラに過ぎることはありませんでした。
そう、携帯電話に入っていた、妻からの留守録メッセージを聞くまでは!

「ごめんね。鞄、開けちゃった。ツケがおしっこかけてしもてん。中からデカパイが出てきたよ」

たちまち携帯電話を持つ手が震え、頭の中が真っ白になりました。
かつて一度もトイレの失敗などしたことがないツケが・・・私の鞄に・・・おしっこを・・・そんな・・・まさか・・・。
俄かに信じがたい話ではありましたが、帰宅後、眼前に立ちはだかる妻と「明日香キララ」を前にして、
弁解など出来る筈がありません。現に、私のPORTERからは、強烈なアンモニア臭が漂っていましたし。
その後の展開は、みなさまのご想像にお任せするとして、青木淳悟さんの『いい子は家で』とは、つまり
そういう内容の小説だということです。母なるものの存在を、克明に浮かび上がらせる異色家族小説です。
私と同じような体験をされた方は必読ですよ。母とは、女性とは・・・。

天国のツケちゃん。
キミのおかげで、いまでは堂々とAVを観ることができるようになりましたよ。

青木淳悟 / いい子は家で

テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

旅ゆけばDUB

little.jpg

今更「夏だ!レゲエだ!」なんて言う気は毛頭ない、などと啖呵を切っておきながらも、レゲエです。
スティールパンが描く、音の水墨画。長谷川等伯・ミーツ・ダブ。それ即ち、リトル・テンポです。

グッド・ミュージックの水先案内人bunboniさんがコチラで取り上げておられるように、デビューと同時に、
偉大なる詩人リントン・クウェシ・ジョンソンを招聘することに成功した、日本が誇るダブ・バンドですね。
遥かジャマイカから飛来したレゲエの種子は、ここ極東の島国で、極上のわびさびサウンドとして開花します。
その最大の成果が99年の『RON RIDDIM』でしょう。本場にありがちなトバし系ではなく、静謐さとユーモアとが
奇跡的に結びついた和製ダブ・サウンドです。音の配置によって空間を操作するという手法も、既に熟練の域。

『RON RIDDIM』以降、商業的には成功を収めていくものの、何となくナンパな作風に偏重してしまい、
『RON RIDDIM』や『USUAL THINGS』のような研ぎ澄まされた音の鳴りが、すっかりと影を潜めてゆきます。
そんな訳で、何だかなぁリトテン、と小首を傾げていた08年。新たな傑作『山と海』がリリースされたのです。

初期作品を髣髴させるメロウなダブから、活気溢れるカーニヴァル・ソングまでをも収録し、これまでの活動の
美味しいところだけを凝縮したような、集大成的作品です。硬軟取り揃えた粒ぞろいの楽曲は、老若男女問わず、
幅広く受け入れられるものでしょう。終盤の「温泉物語」から「Over the Rainbow」への流れは特に素晴らしく、
いつ聴いても極楽・夢見心地にさせてくれますよ。こういうリトテンが聴きたかったんです。
誰か、はやく麦焼酎を持ってきて(呑めないけど)!

Litttle Tempo / RON RIDDIM
Litttle Tempo / 山と海

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

アライコダイの女神



連日に渡って、今夏最高気温を更新中である灼熱の日本列島。いやぁ、夏。憎たらしいほどに夏ですね。
暑いときに限って、辛くて熱い物を欲してしまうのと同じで、音楽も敢えてクソ暑い国のものを選んでしまう。
それが人間の性ってもんですよね。今更、「夏だ!レゲエだ!」なんていう気は毛頭ありませんが、
「夏だ!ルークトゥンだ!」くらいは、声高に主張してみてもよろしいのではないでしょうか?

そんな訳で、いま現在、我が家での高頻度再生CDのひとつに挙げられるのが、タイの音楽。
男性歌手では未だにチャーイ・ムアンシンが最も好みなんですが、女性ではこの人、ブッパー・サーイチョン。
70年代の女性歌手の中では断トツに垢抜けたルックスが魅力的です。しかし、美貌に騙されてはいけません。
歌唱はパワフルそのもの。楽曲なんて、あらゆる要素をごった煮にしたミクスチャー・サウンドです。

前川健一さんの名著『まとわりつくタイの音楽』によりますと、こういうのをアライコダイと呼ぶそうですね。
タイ語で「何でもあり」「何だっていい」という意味だそうです。なんて健全な音楽の在り方でしょうか!
ファンキーなR&Bや惚けた田園調に始まり、沖揚げ音頭「ソーラン節」のカバー曲まで飛び出す、音の万華鏡。
それらを完璧に咀嚼して歌いこなす彼女の独自性こそが、まさに、アライコダイの歌姫と呼ばれる所以でしょう。
観光客相手に「偽物、安いよー」と平気で吹っかけてくる彼の国での、キラリと輝く本物の歌い手さんですね。
誰か、はやくシンハービールを持ってきて(呑めないけど)!

Buppah Saichol / vol.1

テーマ : 音楽
ジャンル : 音楽

フレンチ・カリビアンの郷愁



マルチニークを代表するクルーナーと、グァドループ出身の名ギタリストによる美しき邂逅。
奴隷解放150年を記念するアルバムです。ジェラール・ラ・ヴィニの、甘美で優雅な楽曲の数々が、
カリブ海の幻影を陽炎のように浮かび上がらせます。気が置けない仲間たちとの酒びたりの歓談が、
こんなにも豊潤な音楽を産み落とすのですね。ポジティヴな雰囲気と心地良い感傷とが溶け合う傑作。

ビギン、ボンバ、メレンゲ、カリプソといったカリビアン・リズムの躍動と、ラルフ・タマールの美声が相俟って、
リスナーを至福の境地へと誘ってくれます。瞳を閉じれば、きっとアナタにも波の音が聞こえてくる筈。
誰か、はやくラム酒を持ってきて(呑めないけど)!

※ジェラール・ラ・ヴィニは昨年お亡くなりになられたそうです。しかし彼の音楽は、永遠に輝き続けるでしょう。

RALPH THAMAR / LA MARSEILLAISE NOIRE

テーマ : 音楽
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夏祭浪花鑑



泉州浜田の家中 玉島兵太夫の忰磯之丞は、堺の遊女琴浦に溺れて放埒を尽くし、勘当される。
兵太夫の恩を受けていた堺の魚売団七九郎兵衛は、琴浦と添わせるべく磯之丞の世話をする。
磯之丞の恋敵大鳥佐賀右衛門は、琴浦を手に入れようと奸計し、一寸徳兵衛を味方につける。
団七と徳兵衛は達引きとなったが、徳兵衛も玉島家の恩顧を受けたものであることが判明し、
団七と徳兵衛は義兄弟の契りを結んで、磯之丞を守ることになり、釣船の三婦の許に磯之丞と琴浦を匿う。
徳兵衛の女房お辰は、磯之丞を備中玉島へ送り届けるため、自らの額に焼き鏝を当てて、醜婦となる。
団七の舅三河屋義平次は琴浦を奪い、大鳥に渡して金にしようとするが、追付いた団七はさまざまな恥辱に
耐え、歎願するも聞入れぬので、思わずも舅を殺してしまう。舅殺しが露見した団七は・・・・・・。

なんていう「あらすじ」を捲くし立てることは、例によって意味がない。
人形浄瑠璃は上演されている瞬間にこそ血が通う。その瞬間に立ち会わなければ、真の魅力は伝わらない。
あの噎せ返るような大衆の臭気を、お堅い言葉で形容することなんて、できる訳もない。
だから、この文章も悪あがきに過ぎない。それでも伝えたい。無謀と知りつつも、言葉との格闘を演じてみる。

文楽を観劇する度に思うことなんですが、これは堅苦しい「お芸術」なんかじゃないですよ。
血湧き肉踊る大衆娯楽、その一言に尽きます。そして、今回の『夏祭浪花鑑』は、物凄くハードボイルドな内容。
全身にド迫力の彫り物を刻み込んだ団七のカリスマ性に釘付けですよ。人一倍、仁義を尊ぶ人柄でありながらも、
一度スパークすると誰も手が付けられない。その暴走っぷりの凄まじいこと。あまりの迫力に、またしても彼が
人形ってことを忘れてしまいました。究極が、舅を殺めてしまう「長町裏の段」でしょう。まさに狂乱の坩堝。
歓喜のだんじりビートが、文字通りの地獄絵図に不思議な躍動感を与え、より一層、混沌に深みが増しています。
物語のクライマックスはここになるのでしょうが、見所は他にも多数あります。

手に汗握る心理合戦。跳梁跋扈する嘘、嘘、嘘。迸る人情。気っ風のいい女。こりゃ『アウトレイジ』ですぜ。
特にお辰さんね。美しいお顔に灼熱の焼き鏝を当てての「この顔でも分別の・・・」には戦慄が走りましたよ。
そして真昼の情事を演出する際の徳兵衛の名台詞には爆笑しました(場内で、僕と友人のふたりだけが)。
裁縫をしているお梶の下半身を弄りながら「ここの綻びをワシが縫うてやろうかい」ですからね。最高です。
このような素晴らしいものに触れる機会を与えてくれた友人には、感謝の気持ちでいっぱいです。おおきに。
何となくショーン・ペンの初監督作『インディアンランナー』を思い起こしたりなんかして・・・。

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ジャンル : 学問・文化・芸術

線路は続くよ何処までも

paramo.jpg

西宮市大谷記念美術館で開催されていた『パラモデルの 世界はプラモデル』展に行ってきました。
展示室内に所狭しと張り巡らされた青い筋の正体は、オモチャのプラレールなんです。
際限なく連結されるレールを用いて、どのような世界を描くことができるのか?
その発想自体は割かし安易だとは思いますが、それを具現化し、美術館そのものを作品に見立てた
ブレない企画力と実行力には、頭が下がります。良い意味で、敷居が低いのもポイント高しですね。

写真は「paramodelic-graffiti」という展示の一部なんですが、確かに品の良いグラフティって感じ(笑)。
小難しい理屈なんて、これっぽっちも必要のない企画展なので、子連れのお客さんも多かったです。
ただし、あれだけ楽しげな演出をしておいて「作品にはお手を触れないで」ってのは子供たちには酷ですよ。
もどかしそうな表情をしたキッズをたくさん見かけましたもん。でも、しゃーないか(笑)。
子供たちよ、自分の進むべき道(レール)は、自分自身の手で作れ!

※本文とは関係ありませんが、コチラがグラフティ・アートの進化系です。すごい!

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繁盛亭アルバイテン

Author:繁盛亭アルバイテン
ヒッピー・ボヘミアンな生活に憧憬を抱く浪速のポンコツ。
物心ついたときから寝つきが悪い。

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